人間失格(太宰治)

 なんとなく読んだ本の話でも。

 昨日ぐらいに「そうだ。今年は太宰生誕100年で話題だし、良い機会だから読み返してみるか。」と思い、数年ぶりに手に取った「人間失格」。今までにも何度か読んで、分かってはいたけれど相変わらずの鬱展開で、読後感も最悪でした。


 おそらく誰もが知っているとは思うけれど、「人間失格」は太宰治畢生の作品であり、氏が死を賭して書き上げた傑作。昨年は、こんな感じ↓でマンガ家の小畑健DEATH NOTE夜神月風の表紙絵を描いたことで話題になるなど、今でも注目を集めている作品です。

人間失格 (集英社文庫)
太宰 治
集英社
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 世間ではどれぐらいの人が読んだことがあるのか、ちょっと分かりませんが、本好きな人は中学生か高校生ぐらいの時にこいつに出会って、酷い目に遭うもんだと俺は勝手に想像しています。本を読む習慣のない人でも、例えば読書感想文の課題などで読んだことがあるんじゃないでしょうか? そういえば、あまり本を読まない俺の妹ですら、課題で中学ぐらいの時に読んでいたように思います。


 この「人間失格」と夏目漱石の「こころ」の2冊って、ある種通過儀礼みたいなもんだと思うんですよね。人間の嫌な部分と心底向き合うことのできる数少ない本だし、こういった感性を経験することで人は大人になっていくと思うんですが。どうでしょう?


 ただ、この「人間失格」はその内容上、読む人を選ぶ作品だとは思ってます。好きになり、それこそ愛読書になるぐらい傾倒する人もいる反面、例え本が好きだったとしても強い嫌悪感を抱くぐらい嫌いになる人も、同じぐらいいるんじゃないかと思います。あれですね、エヴァ碇シンジに「俺シンジ」みたいに共感する人とある種似た構図なのかもしれない。


 ちなみに、俺はこの「人間失格」のことは好きです。作中で描かれている葉蔵のような心性に共感できる部分が多々あります。実際、滅多に本を買わない俺が本棚に置いてあるぐらいです。


 こんなことを言うと、「keloがまたネガティブなことを言っているよ。」と誰かに腐されそうですが、俺は基本的に人とコミュニケーションを取るのが下手くそで、また他者に対する劣等感というものが未だに拭いきれなかったりするところもあり、葉蔵の世間的な体裁を守るために自分の感情を仮面で隠す狡猾さとか陰鬱な感性というものがとてもよく理解できます。


 例えば、マンガですが「彼氏彼女の事情」の途中の場面とかも、ものすごく共感できるんですよ。有馬くんが精神的に鬱になっていく途中の場面です。


 誰しも本音と建て前とか、内面と外面とかあるじゃないですか。普段はあまり考えない、そうした人間の醜い部分に突っ込んで書いたのが「人間失格」だと思うんですよ。


 それから、この「人間失格」は太宰の自伝に相当するものだというのはよく言われることですが、改めて読み直して、高校生の時に初めて読んだときにはあまり分からなかった、作品の背景にある太宰の恋愛感情というものが少し読み取れたような気がしました。


 簡単に太宰の気持ちを代弁するなら、

「好きだっていってくれる女の子は多いけど、自分が振り向いて欲しいと思う女の子は振り向いてくれないし、他人に寝取られちゃったよ。なんて俺はダメな男なんだろう・・・。人生終わった。」

 といった感じになるんじゃないかと思うんですよね。


 若干下ネタめいた話になるかもしれないけれど、結局太宰は女性に対して母性的な愛情を求めていたけれど、それを得ることが出来ず、代わりに女性から肉欲的感情ばかり向けられていたんじゃないかと思いました。しかも、太宰はものすごくモテてしまっていたため、そういった卑猥な感情を簡単に得ることが出来てしまっていた。

 こうした恋愛の齟齬が太宰の悲劇であって、この手の女性の性欲ってのが太宰にとっての恐怖だったのかもしれませんね。ちょっと前に、谷崎の「痴人の愛」の感想でも書いたけれど、俺も女性のこういった部分ってぞっとしたりします。


 とにかくこの「人間失格」は深く読めば読むだけしんどくなる小説だとは思います。これを書いた直後に太宰が自殺してしまったという背景も含めると、本当に救いがありません。


 でも、もし読んだことがないなら一度は読んでおくといいんじゃないでしょうか。長くないのですぐ読めますし、青空文庫にもありますから。


 → 図書カード:人間失格


 よかったら、夏休みの読書課題なんかにw