盲目の時計職人

 ミーム利己的な遺伝子といったセンセーショナルな言葉を初めて提唱し、世界中で物議をかもしたリチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」は、以前に読んだことがあったのだけれど、彼のそれ以外の著作は今まで読んだことがありませんでした。


 この本を読もうとするきっかけを持ったのは、幻影随想さんで見た福岡伸一氏の進化論に関する見解のおかしさから。福岡氏の主張がおかしいことは理解したけれど、福岡氏が言及しているドーキンスの本書を読んだことがなかったためです。


 → 幻影随想: 福岡伸一氏の書く文章が到底見過ごせないレベルで酷い件 その2―進化生物学に対する無知―



 さて、本の感想を話す前に目次を引用する。

1章 とても起こりそうもないことを説明する
2章 すばらしいデザイン
3章 小さな変化を累積する
4章 動物空間を駆け抜ける
5章 力と公文書
6章 起源と奇跡
7章 建設的な進化
8章 爆発と螺旋
9章 区切り説に見切りをつける
10章 真実の生命の樹はひとつ
11章 ライバルたちの末路

 この本は、生物の進化を説明する理論が自然淘汰説であることを分かりやすく説明し、また未だに根強く(特にアメリカでは)残っているIntelligent Design説やラマルキズムの否定を懇切丁寧に解説している本です。進化論に詳しくない一般読者に対し、ダーウィニズムを解説しているのが目的の本だけれど、一般読者相手でもレベルを落とすことなく、終始ハイレベルな議論が続きます。

 上の記事で福岡氏が話している目の進化や、こうもりのエコーロケーションといった一見複雑な行動で進化するのが複雑に思えるような現象を例にだしているのが、印象的だった。余談だけど、なぜ複雑な目が進化できたのかというと、ゼロの視覚よりも10%でも視覚があった方が生存に有利だからです。


 前に読んだ「利己的な遺伝子」でも感じたけれど、ドーキンスの主張には、ある種思い切りのいい部分というか、対立意見に対するアジテーション的なものが含まれているので、微妙にうさんくさいと直感的に感じてしまうところもあるんだけどね。



 それから、進化論をそこそこやっている人なら知っているであろう、スティーブン・ジェイ・グールドとの対立(断続平衡説の否定)についても、下巻で触れられています。その対立については、このブログが詳しい。


 → 2007-08-09 - 赤の女王とお茶を


 とにかく、進化論とは何か、なぜ複雑な形態が進化しうるのか、といった疑問に明確に答えることの出来ない人は読むべき一冊なのだろうと思う。この一冊を読めば、ネオ=ダーウィニストになるんだろうね。