バイオオタが非オタの彼女にバイオ世界を軽く紹介するための10人

 もう2週間前のネタだし、拾うのを止めようかとも思ってたんだけど、物理、化学は出てきているのに、生物がいつまで経っても出てこないので、自分で書くことにしました。

 やっぱり、バイオ業界にいる人でブログをやってて、さらにはてなのネタを拾って、書くような人間は希有な存在なのか。

 なお、俺はバイオオタ・・・かもしれないけど、誰であったとしても、バイオ世界を自分からは紹介しないなぁ。聞かれたら、話すだろうけど。


 今回のネタですが、元ネタはこれ↓


 → アニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本


 このネタを元に、様々な業界の人(オタ)がネタを書いてます↓


 → はてなブックマーク - タグ 軽く紹介するための10本


 では、始めます。以下、マニアックかつ長いです。

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まあ、どのくらいの数のバイオオタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、
「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、
その上で全く知らないバイオの世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」
ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、バイオのことを紹介するために
見せるべき10人を選んでみたいのだけれど。

(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女にバイオを布教するのではなく相互のコミュニケーションの入口として)

あくまで「入口」なので、時間的に過大な負担を伴うマニアックな人の解説は避けたい。
できれば伝記が出ているような人物、少なくとも世界的研究者にとどめたい。

あと、いくらバイオ的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。
バイオ好きが『アリストテレス』は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。

そういう感じ。

彼女の設定は

バイオ知識はいわゆるNewton的なものを除けば、高校生物程度は知っている
バイオへの関心は低いが、頭はけっこう良い

という条件で。

まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。

James D. Watson

まあ、いきなりここかよとも思うけれど、「Watson以前」を濃縮しきっていて、「Watson以後」を決定づけたという点では外せないんだよなあ。ノーベル賞も受賞してるし。

ただ、ここでA-helix, B-helix, Z-helixなどの構造トークを全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。

この情報過多な遺伝情報について、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報を彼女に伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。

Charles Darwin

この人って典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうなバイオ人(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのもの

という意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには
一番よさそうな素材なんじゃないのかな。

「バイオオタとしては、自然選択や進化論は”常識”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。

Paul Berg

ある種のバイオオタが持ってる人工生命への憧憬と、一方で生命倫理へのこだわりを
彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにもバイオオタな

「改変タンパク質」を発現するモデル生物

「遺伝子の輸送」を体現するプラスミドの構築

の二つをはじめとして、オタ好きのするバイオ技術を世界に提唱したのが、紹介してみたい理由。

Frederick Sanger

たぶん彼を見た彼女は「英国紳士だよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。

このレベルの天才がその後続いていないこと、彼がノーベル賞を2回受賞するほど人気になったこと、
彼が生涯で数える程しか論文を出していないのに、この業績の凄さはアメリカで実写テレビドラマになって、それが日本に輸入されてもおかしくはなさそうなのに。

日本国内でこういう遅筆の天才を擁護する学術的雰囲気が出ないことへの憂い、なんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。

Andrew Fire/Craig Mello

「やっぱり遺伝子発現は調節するものだよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「Mario Capecchi」でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、ノーベル賞共同受賞者Craig Melloのお茶目ぶりが好きだから。

断腸の思いで設計して、それでもsiRNAの働く割合が低い、っていうあたりが、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、その「遺伝子の発現を調節する」ということへの諦めきれなさがいかにもオタ的だなあと思えてしまうから。

RNAiを俺自身はダメとは思わないし、もう欠くことの出来ない技術とは思うけれど、一方でこれがKnockoutだったら、きっちり遺伝子発現をゼロにしてしまうだろうとも思う。

なのに、各バイオベンチャーに頭下げて手間暇かけてsiRNAを設計してしまう、というあたり、どうしても「自分の解析する遺伝子を即座に調べたいオタク」としては、たとえRNAiの効果が曖昧だったとしても、親近感を禁じ得ない。技術自体の分子メカニズムと合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。

Max Delbruck

今の若年層でMax Delbruckを知っている人はそんなにいないと思うのだけれど、だからこそ紹介してみたい。

Watsonよりも前の段階で、生命の増殖とか遺伝とかの概念は頂点に達していたとも言えて、
こういうクオリティのバイオ学者が物理学者の中からこの時代に生まれていたんだよ、というのは、別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、
なんとなくバイオ好きとしては不思議に誇らしいし、
いわゆる分子生物学でしかバイオを知らない彼女には見せてあげたいなと思う。

Kary Mullis

遺伝子の「増幅」あるいは「サブクローニング」という技術をオタとして教えたい、というお節介焼きから見せる、ということではなくて。

「遺伝子はPCRで増幅すればいい」的な感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、だからこそヒトゲノム解析PCRなしではあり得なかったとも思う。

「未知の遺伝子を解析する」というオタの感覚が今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の源はPCRにあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、単純にDNAを増幅して見えるエチブロ染色の綺麗なバンドを楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。

Stanley Prusiner

これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。
こういうマッドサイエンティスト風の研究者をプリオンというかたちでノーベル賞受賞者にして、それが非オタに受け入れられるか
気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。

Craig Ventor

9人まではあっさり決まったんだけど10人目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にVentorを選んだ。

Watsonから始まってVentorで終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、ヒトゲノム以降のゲノムサイエンス時代の先駆けとなった人でもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい人がありそうな気もする。

というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10人目はこんなのどうよ、というのがあったら教えてください。

「駄目だこの増田は。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。

こういう試みそのものに関する意見も聞けたら嬉しい。

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もっと紹介したい人が沢山いるんだけど、ここまでで。
このうち3人でも知っていたら、間違いなくバイオオタですw
2人目のDarwinと10人目のVentor以外は、ノーベル賞受賞者ですねー。

書き始めて、3人目ぐらいで後悔したよ。しんどかったー。よくみんな考えるよな。
俺も含め、暇人だ・・・。

追記(2008/8/5 17:00)

 生物ネタは出てきていた。id:Hashさんが書いてくれていた。さすがというか、やっぱりというか、ブクマ数がすごいなあ。


 → 生物オタが非オタの彼女に分子生物学の世界を軽く紹介するのための10タンパク - バイオ研究者見習い生活 with IT


 地雷が微妙にかぶっていますね。